vol.1 妊娠中の歯科治療

妊娠中の妊婦さんは歯科治療を受けられるのか? 鎮痛剤などのお薬は飲めるのか? といった相談をよく受けます。

妊娠中の歯科治療

本やインターネットで調べてみると・・・

《1》ある出産雑誌のコラム  

安定期に入れば歯科治療は問題ありません。赤ちゃんが生まれた後は、歯医者さんにいくのも一苦労ですから、おなかにいるうちにしっかりと治療しておきましょう。

《2》ある産婦人科医 

妊娠に歯科治療が悪影響をおよぼすことはほぼありません。出産時に痛みがでると大変ですから、安定期にむし歯や歯周病はしっかりと治療しておきましょう。

《3》ある歯科医 

歯を抜いたり、痛みどめをのむこと以外はほとんど問題ありません。

歯科治療が妊婦にどのような影響を与えるのかは立場によって様々な意見があります。
これは、福島原発の問題で「放射性物質がどの程度人体に影響があるのか」についての見解が政府、専門家により異なるのと同じです。

どちらも「おそらく大丈夫だけれど、100%大丈夫とはいえない」のです。

ですから、実際に歯科治療を行う歯科医師からすると、歯科治療の母子に及ぼす影響がはっきりしない限り応急処置以外の治療は行わないというのが原則です。
あとは患者様ご自身の考え方、痛みやお口の状況を担当歯科医とご相談のうえ、どこまで治療していくか検討してください。

それでは歯科治療で妊婦、胎児へ悪影響を与えると考えられるものについて細かく検証してみます。

なお今回、写真協力してもらったのは当院歯科衛生士の畠山です。この当時、妊娠八カ月ですがそんなの素振りもみせずばりばり働く明るい元気なお母さんです。

妊娠中のレントゲン撮影について

レントゲン撮影時の放射線被曝を心配されます。
しかし、実際は・・・

  • 鉛入りの防護エプロンを着用して腹部を遮蔽していること。
  • X線を腹部に照射しないこと。

(X線は直線的に照射されるので直接腹部に当たることはありません。)

との理由で胎児への被曝量はほとんどゼロとなります。

それよりも、鉛入りエプロンが重いためふらついたり、つわりがひどい時にレントゲンフィルムをお口に入れるのがつらい事があります。
なお北上尾歯科ではデジタルレントゲンを使用しているので放射線の量が通常の十分の一の程度で済みます。

妊娠中の局所麻酔について

歯科で一般的に使用される局所麻酔は、胎児への影響はほぼありません。
一部、麻酔薬に含まれるアドレナリンが血圧を上昇させ子宮にも影響を及ぼすという意見もありますが、歯科で使われる麻酔の量ではほぼ問題ないでしょう。
なお、フェリプレシンを含んだ麻酔は分娩促進作用を含んでいるため使用すべきではありません。(一般的な歯科医院では使っていない麻酔薬です。)
そうはいっても実際には「麻酔は絶対に避けたい!」という患者様も多いです。ご心配な方は、治療に麻酔が必要かどうか事前に歯科医師に相談して検討下さい。

妊娠中の飲み薬について

抗生物質は飲んではいけないものも一部ありますが、歯科で一般的に処方されるセフェム系であれば問題は無いでしょう。
一方、痛みどめは確実に安全といえるものはありません。
どうしても必要なときは当医院ではカロナールを処方しています。しかしカロナールは効き目が弱く、人によってはほとんど効かないこともあります。

妊娠中の歯科治療への恐怖心、ストレス

妊婦さんの歯科治療のストレス

実はこれが一番問題なのではないかと言われています。特に歯科治療が苦手という患者様は、治療時にうける緊張感から血圧が急激にあがったり、過呼吸を起こすことがあります。また、長時間治療イスに横になりお口を開けることもストレスになるでしょう。ストレスは妊婦にも胎児にも悪影響を及ぼします。

妊娠各時期における治療の基準

あくまで一つの基準程度ととらえて下さい。実際は各患者様の症状、全身状態などから歯科医師としっかり相談ください。

~歯科治療の選択~
妊娠初期 妊娠中期 妊娠後期
1ヶ月〜4ヶ月 5ヶ月〜8ヶ月 9ヶ月以降
応急的な処置のみで、治療が必要な場合は中期に行う。 通常の歯科治療がほぼ可能。後期にずれ込まないようにする 応急処置のみで、応急的な処置。出産後6~8週以降に治療開始。

口腔衛生指導は全時期、出産後も継続して行います。