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なるべく歯を抜かない歯医者はいい歯医者なのか?

2026年7月12日

「できるだけ歯を残したい」

これは患者さんだけでなく、私たち歯科医師も誰もが持っている思いです。

天然の歯は、噛むことや話すことをはじめ、口の健康を維持するうえで非常に重要な役割を担っています。そのため、残せる歯はできる限り残せるよう、私たちは日々技術を磨き、知識をアップデートしながら診療にあたっています。

しかし、「歯を抜かないこと」が、常に患者さんにとって最善の治療とは限りません。

近年では、「なるべく歯を抜かない」「できるだけ歯を残す」といった言葉を目にする機会も増えました。もちろん、その考え方自体は決して間違いではありません。実際に、残せる歯を残す努力は歯科医師として当然の使命です。

一方で、無理に歯を残すことが、かえって患者さんに不利益をもたらしてしまうケースも少なくありません。

例えば、重度の歯周病になった歯を無理に残した場合、炎症が周囲へ広がり、隣の健康な歯を支えている骨まで失われてしまうことがあります。その結果、本来であれば長く残せたはずの歯まで失うことになってしまう可能性があります。

また、限界まで歯を残そうとした結果、歯周病が進行し、歯を支える顎の骨が大きく吸収されてしまうこともあります。そうなると、その後の治療の選択肢が狭まってしまいます。

例えば入れ歯は、顎の骨が痩せるほど安定しにくくなり、痛みが出たり、しっかり噛めなくなったりすることがあります。一方、インプラントは顎の骨に固定する治療ですので、十分な骨が残っているうちに治療を行った方が、より良い条件で治療を進めることができます。

さらに、歯周病は口の中だけの病気ではありません。糖尿病をはじめとする全身疾患との関連も数多く報告されており、重度の歯周病を放置することが全身の健康へ悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。

「なるべく歯を抜かない」という言葉だけを見ると、一見すると患者さん思いの優しい歯科医師のように感じるかもしれません。

しかし、本当に大切なのは、「歯を残すこと」そのものではありません。

その歯を残すことで、患者さんが5年後、10年後、あるいは20年後まで健康なお口を維持できるのか。そこを科学的根拠に基づいて判断することこそが、私たち歯科医師の最も重要な役割だと考えています。

もし、無理に歯を残したことで将来的にさらに多くの歯を失ったり、インプラントや入れ歯などの治療が難しくなったりしてしまえば、それは患者さんにとって本当に良い治療だったとは言えません。

私たちが守るべきなのは、一本の歯ではなく、お口全体の健康です。

もちろん、健康に機能させることができる可能性のある歯は、最後まで全力で残す努力をします。しかし、その歯を残すことによって周囲の歯や骨、さらには全身の健康に悪影響を及ぼす可能性があるのであれば、適切なタイミングで抜歯を選択することも、患者さんの将来を考えた大切な治療になります。

もちろん、歯科医師が一方的に抜歯を決めることはありません。

歯の最終的な所有者は患者さんご自身です。だからこそ私たちは、医学的根拠に基づいて、歯を残した場合のメリットとデメリット、抜歯した場合のメリットとデメリットを丁寧にご説明し、十分にご理解いただいたうえで、一緒に治療方針を決めていくことが何よりも大切だと考えています。

「なるべく歯を抜かない」「なるべく歯を削らない」

これらはとても魅力的な言葉です。しかし、それだけで良い治療かどうかを判断することはできません。

本当に大切なのは、その場の一本の歯ではなく、患者さんがこれから先も長く健康なお口で食事を楽しみ、自分の歯で生活できることです。

私たちは、目の前の歯だけを見るのではなく、患者さんの10年後、20年後の健康まで見据えながら、その時点で最も良い選択をご提案したいと考えています。それこそが、本当に患者さんのためになる歯科医療だと信じています。

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